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中国 安楽死大国の道? 豪企業進出“究極の社会保障解決策”

 欧米で積極的な安楽死を推進している企業が、中国に活動の場を広げようとしている。中国の急速な経済成長に社会保障制度が追いつかず、需要が拡大しつつあることが背景にある。
 積極的安楽死を提唱し、「ドクター・デス(死の医師)」の異名を取るオーストラリア人医師、フィリップ・ニチュケ氏(62)率いる安楽死の推進会社「エグジット・インターナショナル」は、欧米諸国で10年以上にわたり安楽死に関するセミナーを開いている。
 年会費100豪ドル(約7970円)で会員を募り、薬物自殺に関する情報を提供。現在の会員数は5000人。また苦痛の少ない薬を紹介した300ページの本も出版。オーストラリアでは販売が禁止されているが、米国ではインターネットで1冊75ドル(約6830円)で販売している。同社は自殺用の薬の入手先と致死量についての情報を提供しているが、薬そのものの販売はしていない。
 同医師は1996年、オーストラリアの北部特別地域(準州)が積極的安楽死を認める法律を制定した後、世界初の合法的な安楽死として患者の自殺を幇助(ほうじよ)した。人間が合理的に下した死の選択は尊重すべきというのが持論だ。
 無神論者として知られる同医師は最近まで安楽死を末期患者に限定すべきとしていたが、「人生に疲れた」と話す多くの人と会って考えを変えた。今では精神状態が安定している50歳以上の人には医師の幇助による自殺を認めるべきだと話す。
 同医師のもとには、苦しまずに自殺する方法について問い合わせるメールが日に10〜15通送られてくる。最近は中国などアジア諸国からの割合が増えているという。
 中国では過去20年で企業の民営化が進み、国営企業による「ゆりかごから墓場まで」の手厚い福祉制度はほぼ崩壊。高齢者らは不確実な将来に直面し不安を募らせている。同医師はこうした現実を踏まえ国の医療費が膨らむ中国でも医師による自殺幇助の研究が必要と話した。
 香港の有料テレビで放映されていた「ディグニファイド・デパーチャー(尊厳死)」は来月から、中国本土でも放送が開始される。番組を制作した香港のヘルス&ライフスタイル・ブロードキャストの蔡和平会長は「不吉だからという理由で、中国で死が話題になることは少ない。しかし尊厳死は死ではなく、いかに人生を終わらせるかという問題だ」と話した。同番組の宣伝にはニチュケ医師も携わっている。
 同医師は、安楽死についての関心が香港でも高まっており、エグジット・インターナショナルの連絡所を開設できるとの見通しを示した。
 中国共産党機関紙の人民日報によると、中国社会科学院は06年末に中国人にとって最大の懸念は医療費の高騰にあるとの調査結果をまとめた。1980年〜2005年に1人あたりの可処分所得の伸びが約20倍なのに対し同期の医療費支出の伸びは133倍と、追いつかないのが現状だ。
 世界保健機関(WHO)によると、05年の香港の自殺率は10万人に17.4人と世界平均を上回っている。また中国国営ラジオは、中国本土の自殺者数は年間約25万人で、15〜34歳では自殺が死因のトップだと報じた。
 オーストラリアの北部特別地域で制定された安楽死法は連邦により無効とされた。現在はオーストラリア、中国、香港とも医師による自殺幇助は禁じられている。一方、米国の多くの州では、末期患者に対して認められている。